こばし鍼灸(掃骨)院 | 日記 | 162→拾い出して再掲載【古い ムチウチ損傷の治療報告】(医道の日本2005年4月号より 本文)


2023/12/24
162→拾い出して再掲載【古い ムチウチ損傷の治療報告】(医道の日本2005年4月号より 本文)


 古い ムチウチ損傷の治療報告(本文) 

         患者  A.M.さん28歳(女)の症例
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【 現 病 歴 】
 10年前、17歳・高校2年生のとき、信号待ちをしていた交差点で、
右折するトラックのバックミラーで、左乳様突起(風池穴付近)を強打され、支えていた自転車ごと吹っ飛ばされた。 膝に擦過傷があったが、若さ故の恥ずかしさが先立って「大丈夫です。」と、逃げ帰ってしまった。

 帰宅してから後頭部の打撲痛と青アザにも気付いたが、膝以外には目立つ外傷も見当たらなかったため、これも放置してしまった。
 しかし、日を経るごとにだるさが増し、集中力を欠くようになった。

  20歳で結婚。
 育児が加わるに及び、日常生活の著しい不都合のため、整形外科・脳神経外科等の病院通いと、コンプリメンタリー(補完医療)のはしごが始まった。
 が、何れも格変なく、2~3年ですっかり諦めてしまい親御さんの支援を受けながらの日々だったという。
  そんな中で、1995年4月から来院していた父親(当時62歳)の腰、膝、肩、腕などの全身の症状が寛解していく姿を見て、もう一度チャレンジする気になった。

 とりわけ興味を引いたのが、父親の少年時代の怪我がもとで茶色く変質した向こう脛の傷痕が、施鍼部だけピンク色に盛り返して来る事だったという。
 (この時点でのこの処置は、ただの余興にすぎなかったのだが――)
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【 主    訴 】
 「左半分(ちょうど僧帽筋の領域から上肢全体にわたって)がすごくだるい。左目はピリピリするし、頭もおかしい、手も痺れる。」


【 触    診 】
 主訴に一致した領域すべてに圧痛・硬結が強く、全体が棒状、板状


【 試 鍼 感 】
 全体に干物様、煮詰まり様の感触で、特に左頭蓋底から頚部の内在筋は、骨格との境界が不鮮明。石灰沈着・癒着が著しく、古ゴム様・軽石様などと施鍼感は雑多。


【治療および経過

 (→「 」は後日のコメント。又、刺激量は患者さまの堪え得る限度を勘案して、記録していたものを後日5段階で表示し直した。)

1995
年9月27日(初診)、10月2日
 電気鍼および乾吸併用。変化が出にくい。


10
月16日
 念のためドクターを紹介。

 受診の結果は、「頸椎捻挫後遺症。頸部に軽い変形が認められる。ビタミン剤の処方と、運動療法を支持した」とのこと。
→「今までも散々遣ってきた。そんなもん効かへん!!!」

11
月 6日
 寸6・4番(50mm長 0.22mm径)の鍼を主に、硬結を骨格 に生えた“キノコ”にたとえれば、形は様々だが、“カサ”の部分を雀啄術で幅広くほぐす。 刺激量+。

→「ほぐれたなと言う実感は1日のみ。ただし、痛みの種類は変わってきた」


11
月16日
 治療は前回同様で、刺激量を++に。 

 →「当日のみ頭痛残。そのあと3日くらいは楽。鍼治療続ける決心をした。」

11
月24日
 前回同様。
刺激量+と、低周波鍼通電(日本メディックス社セダンテ520)15分でトライ。

→「電気では、だるさが取れにくかった」

11
月29日
 夾脊穴で、内臓の働きを加味。キノコの“軸”の部分までほぐす。刺激量+++。

 →「ちょっと楽かな」

12
月1日、9日
 表~中層の筋の緩みから深部の異常がキャッチしやすくなってきたので、寸・8番(60mm 0.3mm径)鍼を投入。体調に応じて可能な限り深部までほぐす。

→「治療後の2~3日は、受傷当時の偏頭痛が再現」
 「懐かしい頭痛…」とは言うものの、かなり強烈な痛みだったようだ。

12
月11日13日
 治療法、前回に同じ。新陳代謝促進を期して乾球併用。

→「頭痛・瞑眩ほとんど出なくなってきた」

1996
年1月8日10日 

 「家(族)中で風邪引いてしまって来られなかった。
体調が悪くて8割方ぶり返した」とは言うが、施鍼感は幸いなことに、“元の木阿弥”にはなっていない。

 治療法、前回に同じ。キノコの “根っこ” までほぐす。刺激量+++。
→「頭や首を振り回さずに済むようになった」

1
月12日18日29日31日2月5日
 直刺・斜刺等の鍼法に拘らず筋繊維、目地に沿った雀啄術。

→「治療後2~3日は全く不調を感じなくなった。その後はちょっと不安になる」

2
月10日23日3月5日7日19日4月26日
 骨格を受け皿にした施術(掃骨鍼法)にも慣れてきたことから、自覚症状を徹底的に聞き取りながら、異物化した局所、とりわけ頭蓋底を含む筋の起始部・停止部・附着部を徹底掻爬していった。
 手技は蚕食するがごとき細心の雀啄術。 刺激量++++。

 患者・術者ともに、真剣白刃の全力投球が続いた。

8
月30日
 久しぶりの来院であったが、この度は雨降りで転倒、腰痛の治療だった。

 その後は、ADLに伴う正常範囲と思われる疲労の治療に留まっている。
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【 考  察 】
 生体は、然るべき刺激と血流によって、毛細血管は10分で増殖し始め、骨にも圧電極性(ピエゾ現象)が発生し、骨細胞の再構築能が高まると言われている。

 一方、頭蓋底には、左右20対もの筋の起始部・停止部があり、“首”と称される細いくびれの部分は、頸椎を軸として神経・血管・内在筋などで埋め尽くされている。
 そこに、自動車事故と言う理不尽な暴力に拠って、自己の治癒力を遙かに越えて傷つき錆びつき、栄養されることも困難となった深部組織。
 レントゲンなどの諸検査で、骨格に異常が証明されなければ、わがままとされ、諦めるしかないのがムチウチ損傷の現状らしい。H24年現在、今もって尚!

 自覚症状があるのに
、生体や脳が認識しなくなった、もしくは認識していても治癒力の及ばない、不完全燃焼のまま立ち消えしてしまったその病巣に、鍼灸、とりわけ“ハリ”なら、直接アプローチができる。

 細い細い鍼という道具で、古傷を小さな新しい傷に変えて行く。新しい傷だからこそ、生体の治癒力は真価を発揮できる。

 この行為を繰り返し繰り返し行って老廃物を徹底的に掻き出した結果、Aさんの古いムチウチ損傷を治癒に導くことができたと考える。
線維芽細胞の真価が、注目に価する。


 150cmそこそこの華奢な女性が、毎回60~90分に及ぶハードな
治療に耐えて、結果的におよそ半年間20数回で回復。

 そこには、何よりもご本人の≪加療反応(一過性の頭痛、発熱、
排便、排尿、生理日や量の変化、青ジミ等々)≫を厭わない強靱な
精神力があり、またその背後には、ご一家の、鍼灸治療に対する、
体験を通しての信頼とご理解があったことは、双方にとって誠に
まことにラッキーなことであった。


 身体は、どうしても辛い不愉快なサインしか出さないようだ。
しかしそれは、生体がどこまでも自力で治そうとしている証拠だとも言える。
 私達は、その病巣を克明に探り出し、フレッシュな血液を送り込んで、老廃物を洗い流すお手伝いをする。
 その血液の質をよくする責任を、患者さまに託して。


    骨格は 身体の大地 掘り起こせ
         潜在治癒力 よみがえるまで
                
                                              身体のお百姓 小橋(本多)正枝


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