こばし鍼灸(掃骨)院 | 日記 | #104.『ムチウチ損傷』投稿に先立って/旧No.161再掲

キズを以って傷を制す。線維芽細胞たちの再性能を最大限に活かす《鍼は世界で最も小さな外科処置》

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こばし鍼灸(掃骨)院 の日記

#104.『ムチウチ損傷』投稿に先立って/旧No.161再掲

2021.05.30

                                                              リンクボタン   『掃骨鍼法を駆使したムチウチ損傷の治癒例』報告に先立って   
          小橋鍼灸院 小橋正枝 (医道の日本2005年4月号より)

プロローグ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 本誌、トリガーポイント鍼療法の特集記事(2004年7・8月号)を読んで以来、“積ん読癖”が少し治った。
 2004年10月号の編集後記に触れてからは、それこそ「パワーと旺盛な好奇心」が掻き立てられ、現場からの熱い想いをぶつけさせて頂こう思い、筆を執った。ただ、“悠”様は若いパワーをお望みのようですが…、当方、老いの焦りからか「科学的な裏付けが早く欲しい!」と言う思いが強くて。

 この度のトリガーポイントの四先生(山下徳次郎・黒岩共一・伊藤和憲・川喜田健司の各氏)の対談を熟読して意を強くした。 
 見識の高いドクターが臨床しておられること、研究室でも検証できる態勢が整ったとお見受けできる圧痛・硬結こと。
 そして今、日本で樹立されようとしている「トリガーポイント鍼療法の理論と実際」は、わが臨床の裏付けとしては最短距離の位置にあり、医療の世界で重要な存在となると確信した。
 前述の先生方、どうかお力を合わせてご精進くださいませ。“悪症退散・健康皆来”の若き旗頭として。

 さて、婆は遺言代わりにムチウチ後遺症の治験例を投稿させて頂きたい。
 この患者は、鍼灸に巡り合っていながら効果があがらず、すっかり諦めていたが、縁あって治癒にいたるまでフォローすることができた。
 この時期に黒岩先生のトリガーポイント鍼理論をしっていたら、自他ともに得心しての治療となり、ずいぶん気が楽だったろうと思うが、当時はたいした予備知識もなく異常な部分(=正常でない部分)をひたすらほぐすという単純作業で成し遂げた一症例である。

 私は在野の一職人鍼灸師で明治東洋医学院発祥の「小山曲泉流神経痛掃骨鍼法」を基に運動器全般に注目した鍼法を得意としている。
  以前に『ひとを治療するということ~43人の東洋医学臨床家の治す悩み克服法~』(医道の日本社)や『医道の日本臨時増刊No.3[介護保険制度下で、あ・は・き師が生きる道を探る]』で取り上げていただいたことがある。
 とは言え、納得の行かない鍼はうちにくいもので、毎日自分に言い聞かせていることがある。症例に行く前にそれを少し述べたい。

《骨格を自由にしてあげる》

「経穴をないがしろにする」というお叱りの言葉をよく耳にするが、経穴学では体表にしか図示されていない。
 生体でとらえた場合、逆に深部からの投影と考えられ、むしろ骨格と体表を結ぶライン表示が必要なのではないだろうか。
 索状硬結、圧痛、硬結、筋膜性疼痛症候群、拘縮、短縮・伸張などによる痛みの増減などのワードを眺めていると、体重のおよそ50%は筋肉、20%が骨格、しめて70%が身体を支持し動かすための運動器で、
脳や内臓はその中に埋まっているという姿が目に浮かぶ。
 とりわけ、その筋肉は関節をまたぐ格好で骨にしっかりと根を張り、ギュ~ッと縮むことで関節に負担を強いながら向こう側の骨を手繰り寄せる。
 支点・力点・作用点……てこや滑車の働きをフルに活用して身体は動いている。日常動作であれハードなスポーツであれ、原理は同じ。
 日々の多彩な動きによって傷つき汚れ、栄養は持ち出され、不完全燃焼の老廃物はこびりつき…。ダブルパンチ、トリプルパンチを喰って悲鳴をあげているのは、綱引きのロープである筋だけでなく、握り手である骨格に他ならない。
 したがって硬結は、骨格に根を下ろしたキノコ状の立体構造に違いない。その筋がどの方向に働き、骨方向に牽引されて傷んだか。硬結の検索と鍼刺入に方向性が問われるのはそのためだろう。

 手当の悪い生体の硬結は成長・増殖しているので、大きさ、硬さ、数、深さは様々で、筋も骨も薹(トウ)が立っていてスジ目が目立つ。
 雀啄すれば局所の症状だけでなく、音まで患者と確かめ合える。そこには絆創膏でも貼り付けたように知覚過敏帯が存在していて、治療に伴い変化する。

 強刺激は組織破壊を招くという考えについてはどうか?
 SOSのサインを発している部分は、すでに破壊されていて、古い核はまるでガレキのようになっている。
 黒岩共一先生流に、局所の深部多鍼は不可欠で、そこには筋トレの目標とする「超回復」の摂理も働くはず。
 治療室にスペースさえあれば、山下徳次郎先生流に『よる長時間置鍼』で眠らせてもらえるなんて、疲れた心身には最高の贅沢。
 私の場合は、局所の状態と施術による直後の変化を患者と共に確かめたいので、細心の雀啄術を用いる。生体反応を確かめない強刺激は危険である。
 そして、瞑眩をどう受け止めるかはインフォームドコンセントによるだろう。 
 
 いずれにしても局所は、いったん変性・異物化したものだから、しこりは潰す・癒着は剥がす・沈着物は削り落とす。
 が今一度、我が身に言い聞かせておこう。くれぐれも単純に強刺激を目論んではならない。あくまでも生体が自力の治癒を放棄したところにジャストミートして、しかるべき刺激を加え、フレッシュな血液を潅流し、老廃物を洗い流し、再構築をお願いする心遣いで。
 少なくとも検出できたポイントを、点ではなく部分で考えて可能なかぎり解し切ること。
 結果として、その治効グラフは大きく右肩下がりの放物線が描けるはず。

 しかし、何故こうも骨格にこだわるのか?
『驚異の小宇宙・人体5 なめらかな連係プレー〔筋・骨格〕』(NHK出版)の中に、長崎大学歯学部、鈴木裕之助教授グループの研究が紹介されている。
「骨にも圧電極性があって、所謂このピエゾ現象が骨細胞の代謝を活性化する」―――。

――背筋に電流が走った。骨格を自由にしてあげなくては!その思いを強くして、撫で擦る優しい治療への憧れに別れを告げた。
 それでは、鍼にしかできない『掃骨鍼法を駆使したムチウチ損傷の治癒例』に繋がせて頂きます。

『掃骨鍼法を駆使したムチウチ損傷の治癒例』報告            (医道の日本2005年4月号)
#11.《陳旧性鞭打ち損傷の治療報告》医道の日本2005

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